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函館家庭裁判所 昭和61年(少)1356号 決定

少年 M・K子(昭和42.1.22生)

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は

第1、昭和61年8月19日午後3時ころ、函館市○○町×丁目×番×号所在の少年方において、興奮、幻覚又は麻酔の作用を有する劇物であつて政令で定めるトルエンを含有する接着剤をみだりに吸入した

第2、同月30日午前4時ころ、上記第1の場所において、興奮、幻覚又は麻酔の作用を有する劇物であつて政令で定めるトルエンを含有する接着剤をみだりに吸入した

ものである。

(法令の適用)

いずれも、毒物及び劇物取締法24条の3、3条の3、同法施行令32条の2

(処遇の理由)

少年は、中学2年生のころから、不良交遊にのめり込んで、急速に生活が崩れ始め、外泊、深夜徘徊などの逸脱行動や怠学を重ねるようになるとともに、いわゆるシンナー吸入を覚え、急速にシンナーに溺れるようになつていつた。

少年は、欠席が多く卒業認定を危まれながらも、昭和57年3月、どうにか中学を卒業し、同年4月、ホテルの臨時従業員として就職したものの、無断欠勤を繰り返して僅か1か月足らずで辞めさせられ、それ以後は、飲食店従業員などとして稼働した僅かの期間を除いてほとんど稼働せず、不良交遊や不純異性交遊(少年には2度にわたり人工妊娠中絶手術を受けた経験がある。)などの逸脱行動を重ねるとともに、シンナー吸入を繰り返すという全く無軌道な生活を続け、昭和57年6月19日、昭和59年8月14日、昭和61年3月22日の3回にわたり毒物及び劇物取締法違反で補導されたほか、昭和59年5月31日、暴力行為等処罰に関する法律違反の非行(不良仲間と道路上で歩行者に因縁をつけ共同して暴行を加えたというもの。)を犯した。少年は、上記の各非行が当庁に係属する都度、保護的措置を加えられたのであるが(なお、これらの非行は、いずれも、当庁において不処分となつている。)、その素行を改めようとはせず、シンナー吸入も続けたため、ついには記憶の喪失、言語障害、手の震えなどの症状が現れるなどの中毒状態を呈するようになり、本件各非行に及んだものである。

このような少年の生活歴及び非行歴、本件各非行に至る経緯に加えて、その性格及び行動傾向上の問題点(少年は、基本的生活習慣が身に付いていないほか、その生活観や男性に対する考え方に歪みが認められる。)などを併せ考慮すると、少年の非行傾向は相当に深化しているものと認められる。

しかるに、両親は、少年の出生直後に離婚し、以後は、父親が親権者となつて少年を養育してきたのであるが、少年と父親との間には、少年の幼少時から心理的隔りがあつて情緒的結び付きに欠けるなど父親の監護には多くを期待できず、また、少年は、父方の祖母には親和しているものの、高齢の祖母には現在の少年はとても手に負えない状況にあり、このような監護環境の現況に鑑みると少年はこのままでは再び非行に陥る危険性が大きく、在宅処遇の方法により少年の更生を図るのは極めて困難と認められる。

そこで、この際、少年を少年院に収容して、シンナー吸入の機会を断ち切るとともに、施設内における集中的・専門的な矯正教育を施す必要があると認められる。なお、少年が現在妊娠中であつて医療処置が必要とされることを勘案して、医療少年院を選択したが、医療処置を施す必要性がなくなつた時点で、中等少年院に種別の変更をされたい旨の勧告を付することとする。

よつて、少年を医療少年院に送致することとし、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 田村真)

(別紙様式)

昭和61年少第986号・1356号

処遇勧告書

少年 M・K子 昭和42年1月22日生

決定少年院種別 医療

決定年月日 昭和61年12月24日

勧告事項 医療措置終了後は中等少年院に移送相当

昭和61年12月24日

函館家庭裁判所

裁判官 田村眞

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